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神戸地方裁判所 昭和34年(モ)179号 判決 1959年4月18日

申立人(仮処分債務者) 株式会社野沢組

被申立人(仮処分債権者) 榎並禎吉

主文

1、当裁判所昭和三十四年(ヨ)第二八号仮処分申請事件について、当裁判所が同年一月二十七日になした仮処分決定は、申立人が金二百万円の保証を立てることを条件としてこれを取消す。

2、申立費用は、被申立人の負担とする。

3、この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

申立代理人は、「主文第一項掲記の仮処分決定は、申立人が相当の保証を立てることを条件としてこれを取消す。申立費用は、被申立人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その理由として次のとおり述べた。

神戸地方裁判所は、被申立人の申請にかかる同庁昭和三十四年(ヨ)第二八号仮処分申請事件について、同年一月二十七日申立人に対し、「1、申立人(仮処分債務者)は、別紙添付図面のとおりの形状及び模様の結合と同一又は類似の意匠を有する婦人用替カラー(着用時前後ほとんど同形同寸にして、左右両端が肩先に及ぶ通称プラターズと称するもの)(以下これを単に「プラターズ」という。)の製造、販売又は拡布をしてはならない。2、申立人(仮処分債務者)の占有する第一項記載の婦人用替カラーの既製品及び半製品について、その占有を解き、被申立人(仮処分債権者)の委任する神戸地方裁判所執行吏の保管に付する。3、執行吏は、第二項の保管の事実を公示するため適当な方法をとることができる。」との仮処分決定をなし、同裁判所執行吏木村良修は、同決定に基き、同月二十八日申立人占有にかかるプラターズ百四十六ダース及び五枚をその占有に移した。

申立人は、繊維製品の製造・販売(主として輸出)業者であるが、昭和三十三年末、ニユーヨーク市五番街グレンスダー・テキスタイル・コーポレーシヨン(以下「グレンスダー」という。)から同市マデイソン街シルクトレード・インコーポレーテツド(以下「シルクトレード」という。)を通じ三回に亘り、人絹ピケプラターズの注文を受け、これに受注を通告し、結局、申立人を売主、グレンスダーを買主とするプラターズ合計五千ダース(売買価格は、すべて一ダースにつき二ドル)の売買契約が成立した。(その詳細は、左表のとおり)

表<省略>

申立人は、右の契約のうち、昭和三十三年十一月二十八日成立の分(以下「第一の契約」という。)については、その履行のため、材料たる人絹ピケを買入れ、株式会社島田商店その他に加工を依頼してプラターズを製作したうえ、そのうち四百八十八ダースは、右契約所定の納期たる昭和三十四年一月前半までに納入したけれども、残余の二千十二ダースは、同年二月前半までに船積すべく準傭中、また昭和三十三年十一月二十九日成立の契約(以下「第二の契約」という。)についても、申立人は、すでに材料として人絹ピケ約七十三万円相当及びボタン約十万円相当を買入れて製作準備中、本件仮処分を受けたため履行できず現在に及んでいる。

そこで、右の事実に基いて、本件仮処分により、申立人に生ずべき損害を列挙すれば、まず、前記契約のうちいまだ履行しない分については買主グレンスダーがこれを解除し、相当多額の損害賠償を請求することが必至である。右賠償額はいまだに明らかでないが、その他に右契約の解除により申立人の失うところは、第一の契約のうち未履行の分については、プラターズ一ダースの売買価格は二ドルであるから、二千ダースにつき解除されれば、申立人は、四千ドル(邦価約百四十四万円相当)の損失を蒙る。(そのうち、申立人の得べかりし利益は右売買価格の八%に当る約十一万五千円である。)第二の契約にかかる分については、申立人が買入れた材料は、なお転用の余地もあるのでしばらくおくが、申立人が喪失する得べかりし利益は、二千五百ダースの売買価格の八%に当る約十四万円である。さらに、グレンスダーは、申立人の十数年来の顧客であり、シルクトレードは、申立人が数十年前対アメリカ貿易を始めた当初からの特約輸入業者であるところ、申立人は、以前から取引の確実性を標傍し、グレンスダー、シルクトレードとの取引では、いまだかつて、契約の不履行による損害賠償の請求を受けたこともなく、アメリカにおいて多年にわたり深大な信用を博しているものである。したがつて、本件仮処分により申立人の受ける最大の打撃は、右信用の失墜であり、このことは、ひいては、日本の国際貿易における信用に関し、重大な影響がある。

一方被申立人の側について言えば、被申立人が本件仮処分の申請に当り主張した理由(請求及び必要性)は、被申立人主張のとおりで、被申立人は、その主張のように、堀越商会に本件意匠権の実施を認め、同商会は右意匠を使用してプラターズを製作しアメリカに輸出しているものである。けれども右意匠は、婦人の審美眼に訴え、その購買意欲を旺盛にする経済的効用を狙いとし、現にその効用を以て堀越商会により商品化されているものであるから、仮に申立人の前記製造、輸出行為が本件意匠権の侵害となるとしても、被申立人の受ける損害は金銭で償えない性質のものでない。そして、被申立人の主張する損害は、堀越商会の蒙る損害であつて、本件仮処分債権者たる被申立人の損害ではないばかりでなく、本件仮処分が取消されて申立人が前示契約に基き、残余の約四千五百ダースをアメリカに輸出するとしても、申立人は右契約につき申立人が受ける利益を業界通常のとおり売買価格の八%と定めたものであつて、堀越商会の取引を妨害するためことさら安価にプラターズを輸出しようとするものでないから、申立人の右輸出が同商会のプラターズ輸出を全面的に阻むわけでもなく、広いアメリカ市場の背景に照せば、同商会の取引の受ける影響は極めて軽微である。

そのうえ、本件仮処分は、申立人のなした前記取引の価格が低過ぎるとの理由でなされたものでないので、同商会がその取引先バア・アンド・ビアヅから値引を求められて損害を受けるとしても、本件仮処分の取消申立の当否にはなんら関係のないことである。

したがつて、仮に申立人の前記行為が、本件意匠権の侵害となるとしても、以上のように、本件仮処分決定の取消により被申立人の受ける損害は金銭で償い得る少額のものであるが、本件仮処分により申立人の受ける損失は甚大であるので、民事訴訟法第七百五十九条にいう特別の事情ありとして本件仮処分決定の取消を求め、本件申立に及んだ次第である。

被申立代理人は、「本件申立を却下する。申立費用は、申立人の負担とする。」との判決を求め、その理由として次のとおり述べた。申立人主張の事実のうち、その主張のとおり、仮処分決定がなされ、それが執行されたことは認める。

被申立人は、意匠登録番号第一四五、六六六号、同第一四五、八一四号の意匠権(以下「本件意匠権」という。)を有するものであるが、その勤務先で、ニユーヨーク市マンハツタン・ボラフ三十七番街所在バア・アンド・ビアヅ・インコーポレーテツド(以下「バア・アンド・ビアヅ」という。)と従来から縫製品の取引を有する横浜市中区山下町所在株式会社堀越商会に対し本件意匠権の使用実施を無償で許諾している。これにより、同商会は、過去一ケ年に亘り独占的にプラターズを概ね一ダース二ドル八十セントの価格でバア・アンド・ビアヅに売渡して対米輸出し、その総額は六万ダースを超え、右売値の約十%に当る安定した公正利潤を挙げていたところ、昭和三十四年一月頃申立人は、本件意匠権を侵害してバア・アンド・ビアヅと競争関係に立つグレンスダーに対し著しく低廉な価格でプラターズを輸出する契約を結び(契約の詳細は不知。これにより申立人の受くべき利益についての申立人の主張は争う。)その頃から被申立人の輸出したプラターズと類似の商品が低廉な価格で米国市場に現われ、アメリカにおけるプラターズの市場価格が撹乱されるに至つた。そのため、堀越商会は、すでにバア・アンド・ビアヅから、いままでに輸出したプラターズ六万ダースにつき一ダース当り八十セントの値引きを求められたが、さらに申立人の前記意匠権侵害行為を即時阻止しなければ、右取引を破棄されるおそれがあり、これにとどまらず同商会がアメリカで培つた市場を失うとともにその信用を失墜する他同商会、ひいては被申立人が将来予測できない損害を蒙るおそれがある。

そこで、被申立人は、本件意匠権に基くプラターズの製造、販売及び拡布の差止請求権につき、申立人の右行為を即時停止しなければ、莫大な損害を蒙るおそれのあることを以て仮処分の必要ありとして、本件仮処分の申請をなしたものである。

およそ実施権とは、意匠を実施しても当該意匠権者から意匠権に基き不作為を要求されない債権であつて、たとえ第三者が当該意匠権を侵害しても実施権者が自ら実施権を行使するのに何の妨げもないのであるから、実施権者には、その実施を許された意匠権の侵害行為を差止める妨害排除請求権がなく、したがつて、通常意匠権者は、実施権者のため契約により当該意匠権侵害行為を排除する義務を負つていることが多く、本件においても、意匠権者たる被申立人は、実施権者たる堀越商会に対しそのような義務を負うものである。さらに、被申立人は、本件意匠権者として、その精神的所産である意匠の工業的考案そのものに対する保護を受ける利益を有する。したがつて被申立人のこのような利害関係は、売却を目的としない物の引渡請求権を本案とする係争物に関する仮処分においてその物それ自体について有する関係同様、単に金銭的補償で救済されるものではなく、むしろ侵害そのものの排除を求める利益を有する。したがつて本件仮処分により保護されるところは、結局金銭的補償を以ては終局の目的を達し得ないものといわなければならない。

また、およそ意匠権者を債権者とする意匠権の侵害の差止を命ずる仮処分の取消について特別事情の存否を判断するときは、前記のように実施権者が意匠権侵害行為に対し法律上差止請求権を有しない関係上、実施権者の事情も仮処分債権者側の事情としてこれを考慮するのが公平であるというべきところ、本件仮処分の取消により被申立人側の受ける損害は、前記のように莫大であるばかりでなく、被申立人側には申立人の現在及び将来の販売数量、販売価格の実態を正確に捕捉することが極めて困難であり、したがつて申立人の意匠権侵害行為による被申立人側の売上減少その他の損害の額も立証困難といわなければならない。

これに反し、申立人のなした前記取引はいわゆる国際的ダンピングであり、本件仮処分により申立人の現実に蒙る損害は、仮に申立人の主張に則して計算しても、得べかりし利益たる数十万円の喪失に止まる。なぜなら、右取引の契約書には、「不測の事態又は不可抗力」については損害賠償義務を負担しないと明記されているため、申立人の主張するように申立人が買主グレンスダーから多額の損害賠償を求められるとは考えられないからである。また、申立人の信用の喪失については、被申立人側のように明白な経済的事情に依存するものと対比すべきではなく、本案判決の確定を待つて律せられるべき事柄といわなければならない。

以上要するに、被申立人側が本件仮処分の取消により蒙る損害は、申立人が本件仮処分により蒙る損害よりはるかに甚大で、しかも立証も容易でない。よつて、本件仮処分の取消については民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情は存しないので、本件申立は失当であり却下されなければならない。

疎明として、申立代理人は、甲第三号証の一ないし六、第四号証の一ないし三、第五、第六号証の各一、二、第七、八号証を提出し、申立人代表者人見九一の尋問を求め、乙号各証のうち、電信局作成の部分の成立を認め、その余の部分は不知と述べ、被申立代理人は、乙第一、二号証を提出し、証人堀越勉の尋問を求め、甲号各証は不知、なお甲第六号証の一、二が商業帳簿であることは認めると述べた。

理由

神戸地方裁判所が被申立人の申請にかかる同庁昭和三十四年(ヨ)第二八号仮処分命令申請事件について、同年一月二十七日申立人に対し申立人主張のとおりの主文を有する仮処分命令を発したことは当事者間に争いがない。

そこで申立人主張のように右仮処分取消につき民事訴訟法第七百五十九条にいう特別事情が存するか否かにつき考察する。

もともと仮処分によつて保護されるものは、特定の給付又は特定の権利関係であるから、金銭をもつてしては、債権者に仮処分と同一の満足を与えるものではない。すなわち、特定給付を目的とする権利を有するものは、その履行に代え損害賠償を求めることもできるが、権利者が、当該権利本来の内容の実現を期して、仮処分を申請したときは、仮差押と異つて、債務者に保証を立てさせて仮処分決定を取消すことは、権利者の意思を無視するものであつて、許されないのを原則とするが、一方この原則を貫くときは、確定判決によらないで仮処分債務者に対し不当に不利益な結果を強いる場合がある。そこで民事訴訟法第七百五十九条は、この両者の調和を図つて、特別の事情が存するときに限り保証を立てさせて仮処分を取消すべきものと定めていると解する。

この前提に立てば、仮処分の取消により仮処分債権者の蒙るべき不利益、すなわち仮処分により維持されている債権者の利益が、将来の金銭賠償とほぼ同価値であつて、これを仮処分の継続により債務者の蒙る不利益と併せ考えたとき、債務者に保証を立てさせて仮処分命令を取消すのが当事者間の利益擁護の公平の見地からみて妥当といえる場合は、この点だけで、その余の事情を考えるまでもなく前記特別の事情があるものということができる。

この特別事情の存否の判断に当つて考慮されるべき仮処分決定の取消により仮処分債権者の蒙る損害とは、本件について言えば、申立人(仮処分債務者が、本案判決に至るまで被申立人(仮処分債権者)の有する意匠権の存否範囲、効力などにかかわりなく、執行吏の占有にあるプラターズの占有を回復し、かつその製造、販売又は拡布をなすことにより被申立人の受ける損害であつて少くとも本件当事者間において将来発生する虞があると予見できるものに限られると解するのが相当である。なぜなら、右予見の範囲を超えるものは、本件仮処分において処理すべき限りでなく、新たな仮処分命令の申請にまつべきものであるからである。

被申立人は、本件仮処分取消により蒙るべき損害につき、まず、被申立人は、本件意匠権者としてその許諾実施権者たる株式会社堀越商会に対し契約により本件意匠権を侵害する行為を排除すべき法律上の義務を負つていると主張し、これを前提として各種の損害の発生を主張する。なるほど、証人堀越勉は、これに副う陳述をしているが、被申立人が同商会に無償で右実施を許諾したことは同証人の陳述から明らかであつて、この事実に鑑み、前記証言はそのまま信用できないし、また実施権者には実施権に基き当該意匠権の侵害行為の差止を請求する権利の認められないことは被申立人の所論のとおりであるが、このことも右主張事実を疎明する資料とはならないので、結局被申立人の堀越商会に対する前記侵害排除義務の存在を認めることはできないから、この義務の存在を前提として被申立人の主張する損害は考慮の限りではない。

次に、被申立人は、意匠権は、工業的考案に基くものでこれには金銭に代え難い精神上の利益が存すると主張する。意匠法第一条によれば意匠権は、新規の意匠の工業的考案をなしたものに与えられるものであるが、元来同法により保護されている意匠権は、その内容としては、主として意匠権者をしてその意匠にかかる物品の製作、使用、販売及び拡布の独占による経済的な利益を享受させるにあり、その目的としては、これによつて意匠の考案を奨励するにあると解せられるから、本件意匠が考案された事情、その後の経緯意匠権者がこれを取得した原因についてなんらの疎明もない本件においては、あえてその精神的側面を重視することは妥当といえない。

その他前に説いたところに従い、本件仮処分の取消により被申立人に生ずべき損害について考えてみると、意匠権者は、その登録意匠にかかる物品を自ら或いは第三者により、製作、使用、販売又は拡布し、かつ意匠権自体を処分することができるので、意匠権は現に自ら或いは第三者により実施されているか否かにかかわらず一定の財産価値をもつというべきであるから、他人がほしいままに当該意匠にかかる物品を製作、使用、販売又は拡布するときは、不法行為等により右財産価値の減損につき損害賠償の責に任ずるものであり、本件仮処分の取消により、被申立人が右の損害を蒙る虞があることは明らかであるが、この損害は、いうまでもなく金銭で補償し得るところである。

以上の損害を、申立人代表者人見九一の尋問の結果により成立の認められる甲第四号証の一ないし三、第五、六号証の各一、二並びに右尋問の結果を綜合して認められる本件仮処分の継続により申立人の蒙るべき損害と対比すれば、結局本件仮処分の取消により仮処分債権者たる被申立人の蒙るべき不利益には、将来の金銭賠償とほぼ同価値といえないものがなく、これを仮処分の継続により申立人の蒙る不利益と併せ考えるときは民事訴訟法第七百五十九条にいう特別の事情があるものとして、申立人に保証を立てさせて本件仮処分命令を取消すのが当事者間の公平に合した解決といわなければならない。

ところが、被申立人は、さらに本件のように意匠権者を債権者とする意匠権の侵害の差止を命ずる仮処分の取消につき特別事情の存否を判断するには、実施権者の利益も仮処分債権者側の事情として考慮することを要すると主張する。けれども実施権者自らがそのような差止請求権を有しないことは、右主張を裏付ける根拠とならないし、その他意匠権に基く妨害排除請求につき特別の考慮をなすべき理由は見当らないので、いわゆる訴訟担当に当らない本件では、当該意匠の実施権者その他の第三者の利害も、仮処分の両当事者の利害に反映しない以上これを考慮すべきものということはできない。また、被申立人、本件仮処分の取消により被申立人に生ずべき損害の額の算定、立証が困難であることを特別事情の存否につき考慮すべきものと主張するけれども、申立人が本件意匠にかかる物品を製作、販売又は拡布するたびに、被申立人においてその数量、販売価格等を知ることは申立人の営業規模からみて必ずしも困難でないから、被申立人に生ずべき損害を前記のように解して申立人の製作、販売又は拡布行為ごとに算定する限り、損害額の算定立証が特に困難とはいえないので右主張は採用できない。

以上のように、申立人の本件申立は理由があるから、申立人の立てるべき保証の額について考えるに、証人堀越勉の証言、同証言により成立の認められる乙第一、二号証、前掲甲第四号証の一ないし三、第五、六号証の各一、二、申立人代表者人見九一の尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、堀越商会が、被申立人から無償で本件意匠権の使用実施の許諾を受けて、プラターズを製造し、昭和三十三年中に約六万ダースを概ねFOB一ダース当り二ドル八十セントの価格で対米輸出し、これにより一ダース当り九十一円余の利益を得ていたこと、申立人は、かねてからの取引先であるグレンスダーから昭和三十三年十一月七日を初めとして三回にわたりプラターズの注文を受け、結局同月下旬合計五千ダースのプラターズをFOB一ダース当り二ドルの価格でグレンスダーに売渡す契約を締結し、本件仮処分の執行された昭和三十四年一月二十八日までにすでに約二千五百ダースのプラターズの製作を終え、残余二千五百ダースについても同年三月末日までに船積できるよう準備していたこと、及び申立人は右取引により一ダース当り五十八円余の利益を得る見込をもつていたことが、いずれも疎明される。以上の事実及び前認定の諸事情を綜合して考えれば、本件仮処分取消につき申立人の立てるべき保証の額を金二百万円と定めるのが相当である。

よつて、申立人において金二百万円の保証を立てることを条件として本件申立を許容し、申立費用の負担及び仮執行の宣言につき民事訴訟法第八十九条、第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野達蔵 前田亦夫 高山晨)

図<省略>

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